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不妊治療薬の解説

1.不妊治療で使われる薬剤の役割と重要性

不妊治療において、薬剤は妊娠の成立をサポートするための重要な役割を担っています。
自然な妊娠のプロセスでは、脳からの指令によって卵胞が育ち、排卵が起こり、受精卵が着床するための環境が整えられます。
しかし、このプロセスのどこかに妨げがある場合、あるいは体外受精(ART)のように一度に複数の卵子を採取する必要がある場合には、薬剤による介入が検討されます。

なぜ不妊治療には薬が必要なのか

不妊治療で使用される薬の主な目的は、以下の通りです。

  • 排卵を適切に起こす、またはコントロールするため:排卵障害の改善や、採卵に向けて複数の卵子を育てるために使用されます。
  • 着床に必要な子宮内膜の環境を整えるため:ホルモンバランスを調整し、受精卵が着床しやすい環境作りをサポートします。
  • 不足しているホルモンを補い、妊娠維持を補助するため:自力でのホルモン分泌が不十分な場合、外から補うことで妊娠維持を補助する目的で使用されます。

一人ひとりの状態に合わせた「オーダーメイド」の処方

不妊治療における投薬は、すべての患者様に一律の内容で行われるわけではありません。
年齢、AMH(抗ミューラー管ホルモン)の値、過去の治療経過、そして患者様のご希望やライフスタイルに合わせて調整されます。

 

2.【重要】不妊治療薬の保険適用と費用の仕組み

2022年4月より、人工授精や体外受精などの不妊治療が公的医療保険の適用対象となりました。
これに伴い、治療に使用される多くの薬剤も保険診療として処方できるようになっています。

2022年4月からの保険適用範囲について

厚生労働省によって承認されている不妊治療薬の多くが、保険適用の対象となっています。
排卵誘発剤、卵胞ホルモン製剤、黄体ホルモン製剤など、基本的な治療に不可欠な薬剤は原則として3割負担で使用可能です。

これまで高額だった自己注射薬なども保険適用となったことで、経済的な負担が軽減されるケースもあります。

保険診療と自費診療(自由診療)の使い分け

保険診療で治療を行う場合、使用できる薬剤は「保険診療として認められたもの」に限られます。
一方で、国内で未承認の薬剤や、承認されていても保険適用の基準から外れる使い方をする場合は、薬剤費だけでなく一連の治療プロセスすべてが「自費診療」となります。
これは日本の医療制度における「混合診療の禁止」というルールに基づいています。

回数制限や年齢制限に関する注意点

体外受精などの生殖補助医療における保険適用には、以下の制限があります。

  • 年齢制限:治療開始時の女性の年齢が43歳未満であること。
  • 回数制限:子供一人につき、初めての移植時に40歳未満であれば最大6回、40歳以上43歳未満であれば最大3回まで。
    この制限を超えた場合、薬剤の処方も自費診療(全額自己負担)となるため、将来の家族計画を見据えたスケジュール立案が重要となります(※1)。

 

3.不妊治療で使われる薬剤

卵胞を育てる:排卵誘発剤の種類と特徴

排卵誘発剤は、卵巣を刺激して卵胞(卵子が入っている袋)の発育を促す薬です。

内服薬(クロミフェン・レトロゾールなど)

比較的穏やかに卵巣を刺激する方法で、主にタイミング法や人工授精、あるいは低刺激の体外受精で使用されます。

  1. クロミフェン(製品名:クロミッドなど):脳に「女性ホルモンが足りない」と錯覚させ、自らのホルモン分泌を促すとされている代表的な薬です。
  2. レトロゾール(製品名:フェマーラなど):エストロゲンの生成を抑えることで卵胞刺激ホルモンの分泌を促します。クロミフェンに比べて子宮内膜が薄くなりにくいという報告があります(※2)。

注射薬(hMG・rFSHなど)

内服薬よりも直接的かつ強力に卵巣を刺激する薬剤で、体外受精において複数の卵子を育てる目的(調節卵巣刺激)で使用されます。

  • hMG製剤:FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)の両方を含み、卵胞の成熟を多角的にサポートします。
  • rFSH製剤:遺伝子組み換え技術によりFSHのみを抽出したもので、品質が安定しており、自己注射に適したペン型製剤が多くあります。

自己注射という選択肢とサポート体制

注射薬を使用する場合、毎日または数日おきの通院が必要になることがありますが、「自己注射」を選択することで通院回数を減らせる場合があります。
また、針は非常に細く、痛みを感じにくい工夫がなされています。

排卵をコントロールする:排卵抑制剤と排卵誘起剤(トリガー)

体外受精では、採卵前に勝手に排卵してしまわないよう、また逆に適切なタイミングで排卵を促すようにコントロールする必要があります。

早すぎる排卵を防ぐ「排卵抑制剤」

卵胞が十分に育った段階で、脳からの「排卵せよ」という指令をブロックします。

  • GnRHアゴニスト(点鼻薬など):一時的にホルモンを放出させた後、抑制に転じさせます。
  • GnRHアンタゴニスト(注射薬など):即効性があり、投与直後から排卵のスイッチをオフにします。

排卵の最終仕上げ「排卵誘起剤(トリガー)」

成熟した卵胞に最後の一押しを与え、卵子を卵胞壁から剥がれやすくして採卵しやすくします。

  • hCG注射:LH(黄体形成ホルモン)に似た働きを長時間持続させます。
  • GnRHアゴニスト(点鼻薬):自らのLHサージを誘発させます(※3)。

着床環境を整える:ホルモン補充剤と周期調整剤

受精卵を子宮に戻す(胚移植)際や、その後の妊娠維持のためにホルモンを補います。

黄体ホルモン・卵胞ホルモン補充の目的

子宮内膜を整え、受精卵が着床しやすい状態を作るために使用されます。

  • 内服薬:手軽ですが、肝臓で代謝されるため、人によっては胃もたれなどを感じる可能性があります。
  • 膣用剤(膣錠):子宮に直接作用しやすく、全身への副作用を抑えやすいとされています。
  • 貼付剤(パッチ)・塗布剤(ジェル):皮膚から吸収させるため、血中濃度を一定に保ちやすいとされています。

 

4.不妊治療薬の副作用:具体的症状とセルフケア

薬剤には副作用のリスクが伴います。
あらかじめ症状を知り、適切に対処法を把握しておくことで、過度な不安を軽減できる可能性があります。

◆ 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

排卵誘発剤によって卵巣が過剰に反応し、腫れや腹水が溜まる状態です。

  • 主な症状:お腹の張り(腹部膨満感)、急激な体重増加、尿量の減少、息苦しさ。
  • セルフケア・対策:重症化を防ぐため、採卵前後は激しい運動を控え、水分を適切に摂取してください。「いつもと違う」と感じたら、速やかにクリニックへ連絡することが重要です。

◆「太る」「むくむ」という不安への理解

不妊治療を始めてから体重の変化を感じることがあります。これは脂肪が増えたというよりも、ホルモン剤の影響で体に水分を溜め込みやすくなっている(浮腫)ケースがあるとされています。

  • セルフケア:塩分の摂りすぎに注意し、着圧ソックスの利用や軽いストレッチで血流を促しましょう。多くの場合、投薬が終われば徐々に元の状態に戻るとされています。

◆情緒不安定・イライラ・頭痛

ホルモン値が急激に変化するため、更年期障害に近い症状やPMS(月経前症候群)のような症状が出ることがあります。

  • 主な症状:不安感、イライラ、頭痛、のぼせ。
  • セルフケア:これは本人の性格の問題ではなく、薬による一時的なホルモン変化が影響している可能性があります。無理をせず睡眠時間を確保し、周囲にも「今は薬の影響を受けやすい時期である」と伝えておくことが、心理的な負担の軽減につながります。

◆局所的な反応(注射部位や皮膚)

注射部位の赤みや痛み、パッチ剤によるかぶれなどです。

  • セルフケア:注射やパッチの位置を毎回少しずつずらす(ローテーションする)ことが基本です。赤みや痒みが強い場合は、無理をせず医師に相談し、外用薬の処方や薬剤の変更を検討します。

 

5.薬の使用に関するよくある疑問と対処法

薬を飲み忘れた・貼り忘れた時は?

不妊治療薬、特にホルモン補充薬は「血中濃度を一定に維持すること」が重要とされています。

  • 対処法:気づいた時点でまず1回分を使用してください。ただし、次の服用時間が近い場合は、自己判断で2回分を一度に使用せず、必ずクリニックに電話で確認してください。特に胚移植前後の飲み忘れは、着床環境に影響する可能性があるため、速やかな連絡が推奨されます。

補助的に使用される薬剤やサプリメント

  • 血流改善薬(低用量アスピリンなど):子宮の血流を整え、着床環境の維持を補助する目的で使用されることがあります。
  • サプリメント(葉酸・ビタミンDなど):胎児の正常な発育や卵子の質の維持のために推奨される場合があります(※要出典確認)。これらは医薬品との飲み合わせを確認した上で取り入れるのが安心です。

 

当院では、医学的なエビデンスに基づきつつ、患者様お一人おひとりの生活や価値観を尊重した情報提供を行っています。気になることや不安な点は、いつでも医師やスタッフへご相談ください。参考文献・出典

 

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